アラフィフ女子のゆるやかな日々

ゆるやかにいろいろなボーダーを越えていきたいアラフィフ主婦のblog

きれいだねって言われたい

遠野遥さんの『改良』を読みました。

遠野さんといえば昨年2作目の『破局』で芥川賞を受賞され、お父様であるBUCK-TICK櫻井敦司さんとの対談でも話題となりました。

破局』は遠野さんの1作目の作品で文藝賞を受賞されています。わたしがこの本を読んでみようと思ったのは「女装」が作品のベースとなっていたから。届いてから一気に読み進め、思わず頭を抱えてしまった衝撃的なラストまで、かなりの感情をえぐられるわたし的問題作でした。

主人公の私(男性)はコールセンターでアルバイトをするハタチの大学生。小学生の時に同じスイミングクラブに通う同級生にフェラチオを強制されるという衝撃的な体験をするも、ジェンダーを覆されることもなく、女性に対して欲情し日常的にデリヘルを利用し性欲を満たしている。

主人公がなぜ女装を始めたかは描かれてはいない。主人公はただ本物の女性に近づくため、より女性らしく見えるウィッグや自分の体型に合う婦人服を購入し、誰にも教わることなく自然に見えるメイクや女性らしい仕草を研究し習得していく。

最初は深夜の散歩やコンビニまでだった女装した主人公の行動範囲はさらに昼間の街へと広がり始める。街ですれ違う人が彼をちらりと見ても、それは女性にしては背が高いせいで見られているだけで自分は男性だとばれてはいないと思い始める。

やがて彼は女装して出歩くことだけでは飽き足らず、他人に自分の美しさに対して認めてもらいたいと思うようになり、また女装した自分と美しい女性をことあるごとに比べてしまう主人公。美しい顔や体を持つものに対しての嫉妬。

わたしは主人公のこの自己満足では飽き足らない欲の深さに激しく共感しました。

日々張りや潤いを失っていく肌や体をなんと食い止めるために化粧水や美容液を塗り込み、3万円以上もする美顔器を買おうか本気で悩み、ちょっとでもまともに見えるように髪型を変えてみたりネイルをしてみたり。作品の中で自称25歳のデリヘル嬢のカオリが自分の美しさのピークを過ぎてこの先どんどん老いていくことに対して「こんな恐ろしことに耐えて生きていかなきゃならないなんて、頭がおかしくなりそう」と言っていますが、まさにそれを現実として生きているわたし。恐ろしいことにそれでもまだ少しでもきれいになれるものならなりたいし、願わくばきれいだねって言ってもらいたい。

物語の後半、美しく女装した自分の姿を認めてもらいたいという主人公の行動は良からぬ方へと向かい、とんでもなく理不尽な目に遭い物語は突然に終わってしまいます。

男性の気を惹きたい訳でもなく、女性になりたい訳でもない、ただ美しい自分でありたいと願う主人公にはただただ共感するしかないし、主人公のバイト仲間である、自称ブスのつくねが「自分の意思だと思ってやっていたことが、実は自分がブスだったからによってやらざるを得なかったことなんじゃないか、つまりは私が本当にやりたかったことじゃなかった、そんな気がする」っていう、美しくないから自分を偽らなきゃいけないって感覚、すごくよく判る。

それにしても美しさの基準て一体なんなのだろうか?一体わたしはいつまで執着していくのか?

美しさとは本当に奥深く罪深いものだとこの作品を読んで改めて思ったのでした。

 

改良

改良